
島根半島の沖合約60㌔に浮かぶ隠岐諸島の一つ、中ノ島に位置する、人口約2200人の町が海士町である。豊富な海産物だけでなく、米作りなど農業も盛んに行われている。
当時の町長、山内道雄さんは、2002年から経費削減をはじめ、自らの給与カットなど、大胆な財政再建に着手した。この動きは管理職らに伝わり、自ら給与カットを申し出た。さらに一般職にも広がり、05年度には「日本一給料の安い自治体」といわれるほどになった。
こうして捻出した費用を町の発展の原資とし、当時廃校の危機にあった地域唯一の高校、海士町の隠岐島前(どうぜん)高校の再建に着手。地域、学校、行政が一体となり、08年、「島留学」や「島親制度」などの取り組みを始めた。
◎島留学
「留学」という形で、島外からの進学者を募集。生徒が「通いたくなる」保護者が「行かせたくなる」そんな魅力的な高校を目指し学校の改革にも着手。首都圏などの講師による「遠隔授業」や、生徒たちの夢実現へ向けての「夢探求」や「夢ゼミ」などを取り入れた。
◎島親制度
島民たちが親代わりとなって、生徒たちを支える仕組み。入学前に生徒が興味のあるものをあらかじめ伝えると、それに応じて地域住民とのマッチングを図る。
◎公立塾
学力向上と居場所づくりを目指し開設。同高校と連携して学習支援やキャリア形成など、生徒たちの多様なニーズに対応している。
これらの取り組みにより、全国から生徒が集まっただけでなく、地元中学からの進学率も高まった(表①)。
さらに、人口増加や観光客の増加にもつながった(表②)。
こうした動きが広がる中で、地域住民と生徒との交流が活発になった。さらに22年より、週に1日、自分のやりたいプロジェクトに打ち込める「地域共創DAY」が導入され、地域住民と連携し、実践的に学んでいる。こうして地域住民とのつながりはさらに深まり、生徒自ら地域の課題を見つけ、地域住民と協力しながら解決を目指す取り組みを進めている。
地域の人たちからは「若い人が一人でも増えれば嬉しい。自分も若くなれる」などの声が寄せられた。また、島留学をしていた生徒が、進学などで一旦は海士町を離れたあと、再び戻ってくるケースも増えている。
次回は、東京から同校へ島留学し、卒業後は進学のため海士町をはなれたものの、「大人留学」という制度を活用し、現在は高校魅力化コーディネーターとして、海士町で活躍する、廣瀬惟來(ひろせいく)さん(20)を紹介する。 (知)