
山田さんが全道大会に向かう際、桑島さんは直感で「今回は行けそうな気がした」と打ち明ける。毎年なかなかトップに届かない中、今年は雰囲気が違っていたと見抜く。
卓球のラケットは表裏2枚のラバーを張る。日夜進歩をめざし活動する中で、行き着くところまで練習したとき「何かしらの変化が必要」と桑島さんは考えた。「ラバーを変えてみたら」とひらめく。かつて明徳義塾高校の当時、インターハイ卓球男子ダブルスで全国5位に輝いた経験から自然と出てきた直感だ。
大会の3カ月前。しかも山田さん自身にラバーの種類を選ばせた。
その後の山田さんの表情を桑島さんは見逃さない。「自分を鼓舞するかのように良く声が出るようになった」。
一方の山田さんは、「自分でラバーを探し、粒高という扱いが難しいラバーに決めた」。それまでとはボールのはね方が異なるなど高難度のラバーだが「これを自分のものにすれば十分武器になる」と心の中でつぶやく。
山田さんのここ一番の詰めの甘さを感じていた桑島さん。「メンタルは強いので、何かきっかけがあれば」と突如思いついたラバー変更作戦。桑島流秘策はラバーを替えてから、さらに前向きな山田さんに変わり「一つの覚悟を決めたようで今回は行ける」と思った。
桑島コーチを驚かせたのは他にもある。
「私の言ったことを山田さんは全部メモに残していた。びっくりしました」と〝山田ノート〟の存在に気づいた時のことを明かす。本人は「年取ると忘れやすいので」とあっけらかんと話すが、個人レッスンを受け始めた最初の頃からすでにもう何冊にもなっている。「一番になる人は見えない努力をしているものですね」と桑島さん。
2025全日本卓球選手権マスターズの部は11月22日から石川県で開催。今回はコーチの秘策もなく、自身の覚悟を武器に10年ぶりとなる晴れ舞台に堂々と臨む。 <完>(寒)