記者を受け入れてくれたのは、網走市内で黒毛和牛の飼育などを手がける高松俊邦さん。記者は、高松さんが飼料を与えずに草だけで黒毛和牛を育てていることに興味を持ち、〝お世話体験〟を申し入れた。
主に餌やりを体験した。寒さが厳しくなる昨年12月上旬、3日間にわたって高松さんの牧場に通った。
朝と晩にほぐした牧草与え
当然だが、厳冬期に牧場の草は生い茂っていない。約70頭の黒毛和牛は基本的に年中放牧されているが、ご飯の時間や寝る時間になれば自発的に牛舎に戻ってくる。
記者は朝と晩、牛舎内での餌やりに挑戦。牛のご飯となる牧草ロールをほぐし、それを両手でかかえ、牛が食べやすい場所に運ぶ―という作業だ。
日が暮れ始めた夕方、牛舎にほぐした牧草を配り始めると、牧場から〝帰宅〟した牛たちが一斉に群がった。こんなに間近に黒毛和牛を見たのは初めて。最初はビクビクしながら牧草を運んでいたが、慣れてくると「牛の目はかわいいなぁ」などと観察する余裕が出てきた。
デジタル技術活用し効率化
命の尊さや飼育環境の進化感じ
1人きりで餌をやる経験もした。実は〝1人きり〟ではなかったのだが…。
牛舎には数台の監視カメラとマイク、スピーカーが設置されており、高松さんはネットに接続したスマホやパソコンで常にチェックできる仕組みになっている。実際、記者が1人で作業していると、高松さんはスピーカーを通じて「そこの場所には牧草をそんなあげなくていいです」などと指示された。
スピーカーだけでは伝えきれない細かい指示は、監視カメラ画像に高松さんが文章など書き込んだデジタル画像が、記者のスマホにLINEで送られる―という具合。デジタル技術をうまく活用すれば、記者のような素人も牛のお世話を手伝うことができることを学んだ。
大きな哺乳瓶で子牛にミルクも
子牛にミルクを与えることも体験できた。生まれて間もなく母牛を失った子牛だ。
大きな哺乳瓶に粉ミルクを入れてお湯で溶かし、適温になったら「おいでー」と声をかける。すぐに駆け寄ってくる(この姿がたまらくかわいかった!!)。
哺乳瓶は記者の股の下から飲ませた。高松さんの指示である。母牛のオッパイから吸う―というイメージに近いらしく、子牛は記者の股にはさんだ哺乳瓶のミルクを勢いよく、おいしそうに飲んでいた。
高松さんが育てる黒毛和牛は「グラスフェッド」(草だけで育った牛―という意味)と呼ばれ、全国に多くのファンがいるらしい。今回の体験を通じて、「草だけで育てる」という飼育スタイルについても学ぶことができた。