
「同じことを繰り返し言う」「知り合いの名前が出てこない」「昨日の献立が思い出せない」―そんな場面に直面すると、単なる物忘れなのか認知症の初期症状なのか、判断に迷うことも少なくない。
「加齢による物忘れでは、時間をかければ思い出せるのが特徴。献立を忘れても『食事をした』という出来事自体は覚えていたり、一部分だけを忘れる傾向にあるが、認知症の物忘れでは、食事をしたこと自体を忘れるなど、出来事そのものを忘れてしまう」と説明。数分前の記憶が抜け落ちることもあるという。
ほかにも、不安や怒りっぽさ、不眠、幻覚・妄想、意欲低下など、症状は人によってさまざまだ。
「ただし、認知症からくる症状によるものかどうかは判断が難しいため、早めに専門の医療機関を受診するように」と強調する。
物忘れは認知症だけでなく、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下などでも起こる可能性がある。そのため、最初はMRIなどの画像検査ができる医療機関での受診が望ましい。
そのほか、意欲低下に関しても、認知症からくるものと鬱によるものとがあるため、早めに専門医の受診を勧めている。
受診先は、脳神経外科、精神科、もの忘れ外来。相談先としては認知症疾患医療センターがある。かかりつけ医があれば、まずは相談して紹介してもらうとよい。
認知症の前段階にMCIも
物忘れ増えても日常生活に支障なく
認知症と正常な状態の間には「MCI(軽度認知障害)」という段階がある。「認知症の軽度とは別です。認知症になる前の段階です」と話す。
大まかな目安としては「物忘れは出てきたが、道にも迷わず、買い物やお金をおろすなど日常生活に支障がない」といった状態。このような段階で受診することで、進行を防いだり、生活の工夫につなげることができる。「今は認知症ではないが、MCIと診断されれば、状態によって半年に1回、1年に1回などの受診で進行状況のチェックを勧められる場合が多い。このまま進行しない場合もあるが、ここから認知症へ移行する場合も少なくないので早めの受診を」と呼びかける。
予防には、生活習慣を見直しバランスのよい食事と適度な運動が大事。お酒が好きな人は、禁酒ではなく節酒に務める。さらに、社会参加や対人交流、趣味を楽しむことも、認知機能低下予防につながる。
町内会の役員など社会的役割を持っている人は、比較的元気なので続けられるものは、続けた方がいいという。また、自ら異変を感じ受診する人も増えており、認知症への意識が高まっているようだ。
次回は、認知症と診断されてからのことについてと、新しい認知症観について紹介する。 (知)